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ジョンミューアトレイルの基礎知識

概要

ジョンミューアトレイル( Jorn Muir Trail、 略してJMT)は、カルフォルニア州東部を南北に貫く、シエラネバダ山脈にあるロングトレイルです。

ヨセミテ国立公園、キングスキャニオン国立公園、セコイア国立公園、アンセルアダムスウィルダネス、ジョンミューアウィルダネス、そしてインヨ国立森林公園の中を、211マイル(340km)に渡ってトレイルが横断しています。

トレイルの北端はヨセミテ国立公園のハッピーアイル、南端はアメリカ本土最高峰のマウントホイットニー (標高4418m)です。
ヨセミテバレーの付近を除いて大部分が標高2500m以上の場所を通っており、3000mを超えるパス(峠)が9つあります。

また、多くの区間が、アメリカ三大ロングトレイルのひとつである、パシフィッククレストトレイル(Pacific Crest Trail、略してPCT)の一部となっています。

そして、トレイルのほとんどがシエラネバダ奥地の高山帯のバックカントリー・ウィルダネスエリアにあるにもかかわらず、全行程にわたりとても良く整備されています。
雪どけが遅く道が埋まっているなどの理由が無い限り、迷うような場所も特にありません。

しかしながら過度に人間の手が入っているわけではなく、トレイル上には山小屋やトイレなどの人工物はほとんどありません。加えて、1日に入山できる人数は厳しく制限されています。

実際歩いてみると、トレイルそのものは広漠なシエラネバダの自然の中でほんのわずかな部分にしかすぎません。
一歩トレイルを外れれば、なにもない大自然にどっぷりとつかっている実感がわきます。

また、JMTは稜線を行く縦走路ではなく、基本的には沢(川)に沿ったトレイルです。
そのため、南端のマウントホイットニーを除き、シエラネバダ山脈の名だたるピークを一度も踏むことが無い点も特徴のひとつと言えるでしょう。

沢沿いを歩いて峠に登り上げ、峠を超えてまた反対側の沢沿いに進むといった感じで道が続いていきます。
峠の付近にはたくさんの高山湖が広がっており、いかにもJMTらしい壮大な風景を望むことができます。

気候風土

景観

アメリカでトレッカーに「一番景色のいいトレイルは?」と尋ねると、多くのトレッカーがジョンミューアトレイルと答えるでしょう。それほどその風景の美しさは有名です。
景色の良さという意味で、JMTがPCTのハイライト区間だと考える人も多いようです。

個人的に特筆すべきは、その景観の多様性だと思います。
歩き進めるにつれて次々と素晴らしい風景が現れることはもちろん、その種類が目まぐるしく変わることに驚き感動します。

4000m級の山々、天高くそびえる花崗岩の崖、切り立った深い峡谷、何もない荒野のようなプラトーなど、厳しくも美しい山岳風景を見ていたかと思えば、1、2時間くらい後には光り輝く無数の湖や小川、明るく趣のある針葉樹の森、どこまでも続く緑の草原とお花畑といったような穏やかな景色の中を歩いているといった具合です。

もちろん、世界にはもっと高い山も雄大な風景もあると思いますが、これだけバラエティに富んだ素晴らしい景色がトレイルの全行程にわたってちりばめられていている場所は、JMTくらいかもしれません。

気候

また、JMTはその素晴らしい気候でも有名です。
世界の主な山脈のなかでも、夏のシエラネバダほど毎日晴天で穏やかな天気が続く場所はありません。
もちろん雨が降ることもありますが、長くても1時間か2時間で止み、それ以外の時間は太陽が輝いているのが普通です。

私たちが歩いた2017年7月後半から8月後半も、約1か月の旅の最中に雨が降ったのは4・5回でした。
しかもほとんどが1時間もすれば止むような夕立でした。もちろん、日中、曇り空の日もありましたが、数えるほどでした。

また、日本とは違い湿気がなく乾燥しているため、歩いて汗をかいてもそこまで体がべとべとすることなく快適でした。
ただし、夜寝る前には保湿クリームを塗らないと、乾燥で手足がカサカサになってしまいます。

トレッキングのスタイル

スルーハイクとセクションハイク

一度に340kmの全行程を歩く(スルーハイク)こともできますし、行程をいくつかに区切って歩く(セクションハイク)こともできます。
また、スルーハイクをする場合も10日ほどで完歩(完走?)する人もいれば、私たちのように1ケ月くらいかけて歩く人もいます。

歩くペースはもちろん、休息日の取り方、トレイルを外れてのピークハント、キャンプや釣りなどの楽しみ方、そして、現実的には一番の問題となるであろう仕事を休める日数などによって各自が自由に設定できます。

なお、一般的に、スルーハイクに要する日数の目安は3週間程度といわれています。
実際、私たちが出会ったスルーハイカーたちもこれくらいの日程で歩いている人たちが一番多かったです。

なお、1週間以上にわたってトレッキングをする場合は、トレイル近辺にあらかじめ食糧や燃料などを送っておき(リサプライ)、これをピックアップしながら旅を続けます。

日本との違い

普段日本でしている登山との違いという観点から、特に感激した3つの点を挙げてみます。

  1. 気が向いたときに、気に入った場所でキャンプすることができます。
    これにより、一日に歩く距離も時間もその日の気分や体調で自由に決めることができるのはもちろん、日本での登山でたびたび問題になる「人が多すぎてテントが張れない」ということは全くありません。
    もちろん、キャンプが全面的に禁止されている場所や、一応キャンプ適地(過去に多くの人がキャンプをした跡が残っている場所)というものはあります。
  2. トレイルは基本沢沿いについており、また標高3000m以上の場所にも高山湖がたくさんあるため、水がとにかく豊富です。
    行動中に飲み水を大量に持ち歩かなくても、必要な時にすぐ確保(要浄水)できることはとてもありがたいです。
    また、ほぼ毎日のように体を洗えたり、洗濯できたりとすこぶる快適です。空気が乾燥しているので、洗濯物もすぐ乾きます。
  3. 標高10000ft(3048m)以下の場所の多くで、焚火をすることが認められています。
    長い歩きが続いた一日の終わりに、炎を見ながらゆっくりするのは至福の時でした。
    ただし、新たにファイヤーサークルを作ってはならず、既存のものがある場合にのみ認められているなど、厳格なルールが定められています。

名前の由来

ジョンミューアトレイルは、アメリカで最も有名なナチュラリストであり、自然保護主義者であるジョン・ミューア(John Muir 1838-1914)の功績をたたえて名付けられました。

ジョン・ミューアは「国立公園の父」や「ウィルダネス(原生地域)の提唱者」などと呼ばれ、その人生の大半をアメリカでの自然保護活動に捧げました。
彼の数々の教えは、現代においても、自然を体験することと保護すること両方の重要性を伝えつづけています。

ミュアーはスコットランド出身で、11歳の時に一家でアメリカのウィスコンシンに移住してきました。
30歳の時ヨセミテをはじめて訪れ、その風景や植生、地質などの素晴らしさに魅せられてヨセミテを心の家と呼び、その保護に注力していきます。

また、作家としても有名で、多くの記事を自然科学雑誌などに寄稿し自身の書籍も出版しています。
そして、後年多くの協力者とともに、アメリカ初の自然保護団体であるシエラクラブを設立し、初代の代表に就任しています。

こうした多くの精力的な活動が、後にヨセミテ国立公園、セコイア国立公園、その他多くのウィルダネスエリアの保護につながることになります。

ジョンミューアトレイルの構想は以前からあったものの、実際に着工されたのはミューアが亡くなった翌年の1915年でした。
数々の著名な探検家、科学者、地形学者などの尽力があり、20年以上経った1938年に完成しました。

なお、ジョン・ミュアーについては加藤則芳氏の本に詳しいので、興味のある方は一度手に取ってみてください。


森の聖者 自然保護の父ジョン・ミューア (ヤマケイ文庫)

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